事業売却の金額は、どうやって決まるのか?
まず基本の考え方です。この規模のEC事業の売却額は、月間の平均営業利益に24ヶ月をかけた金額が出発点になります。月に80万円の営業利益が出ている事業なら、80万円×24ヶ月で1,920万円。ここを基準に交渉が始まる、というイメージです。
なぜ24ヶ月なのかというと、買い手からすれば「2年で投資を回収できる」という計算が立つラインだからです。数千万円規模までの事業譲渡では、この2年分という感覚がよく使われます。
ただし、これは絶対の公式ではありません。買い手の事情や、そのときの案件の集まり具合でも動きます。実際の交渉では、こちらが少し高めに提示して、そこから調整して着地するのが普通です。相場の数字は、あくまで話を始めるための共通の物差しだと考えてください。
なお、一定の規模を超えると売り方そのものが変わります。数百万円から数千万円のレンジは事業譲渡でまとまりますが、それ以上の規模になると株式の譲渡、つまり会社ごとの話になっていきます。この記事で扱うのは前者、数百万円から数千万円のレンジです。
営業利益には、どこまでの費用を含めるのか?
ここは金額に直結するので、先に整理しておきます。売却額の根拠になる営業利益とは、そのEC事業だけで発生している売上から、原価と広告費と販管費を引いた金額です。
実務でよく問題になるのが人件費の扱いです。1人法人や少人数で運営しているケースでは、自分の役員報酬をここに含めずに計算していることが多くあります。事業譲渡で引き渡すのはECサイトとブランドと取引関係であって、経営者本人ではないからです。
ただし、その事業に社員を専任で割り当てているなら、その人件費は入れて計算してください。買い手が引き継いだあとに同じ体制で回すなら、その費用は事業のコストです。ここを曖昧にしたまま高い金額を提示すると、買い手の精査(デューデリジェンス)の段階で必ず指摘されます。
数字の作り方で迷ったら、税務や会計の処理は税理士に確認してください。ここでお伝えしているのは、あくまで買い手との交渉で使われる実務的な考え方です。
24ヶ月分に上乗せできる材料は何か?
24ヶ月分はあくまで基準です。ここから強気に出られる材料が、いくつかあります。
- 運営歴の長さ。同じ月100万円の営業利益でも、2年運営してきた事業と6ヶ月の事業では、数字の信頼性が違います。長いほうが評価されます
- SNSのフォロワー数。ブランドのアカウントに1万人のフォロワーがついていれば、それ自体が買い手にとっての資産です
- LINEリストの規模。すぐに販売の告知を打てる相手が何人いるか。ここは売上の再現性に直結するので、見られます
- 独占販売契約の残り期間と更新条件。日本で扱えるのが1社だけという権利を、買い手はそのまま引き継ぎます
逆に言うと、これらは売る直前に慌てて作れるものではありません。運営しながら積み上げるものです。顧客リストが資産になる仕組みについては、自社ECと独占契約で作るリスト資産の記事で詳しく書いています。
実例:6ヶ月運営のEC事業はいくらで売れたか
実際の数字で見たほうが早いので、2つ挙げます。
支援先の例:EC運営6ヶ月で売却が成立
株式会社Liberte様は、海外メーカー7社との独占販売契約からクラウドファンディングを経て自社ECへ移り、6ヶ月目に売上269万円・営業利益146万円(利益率54%)まで伸ばしました。6ヶ月間をならした月間平均の営業利益は90万円台です。
単純に24ヶ月をかければ2,000万円を超える計算になりますが、運営歴が6ヶ月と短いこと、早く現金化したいという事情があったことから、1,500万円で提示しました。結果、買いたいという申し出が2件入り、1週間ほどで1,400万円での成約です。7ヶ月目の売却でした。
ここで見てほしいのは、運営6ヶ月でも買い手はつくということと、早く決めたいなら価格を落とすという判断が成立するということです。詳しい経緯は支援実績のページにまとめています。
僕自身の例:8ヶ月以内に2,000万円
僕が自分で運営していたアクセサリーのブランドは、8ヶ月以内に2,000万円で売却しました。当時の月間平均営業利益は80万円ほどでしたので、24ヶ月分でおよそ1,920万円。そこから少し高めの金額で募集を出して、値下げの交渉を受けて2,000万円で着地しています。
この事業は、実はクラウドファンディングの時点では失敗しています。それでも一般販売に切り替えてから売上がつき、最終的に売却まで到達しました。クラウドファンディングの結果がそのまま事業の価値になるわけではない、ということです。(この経緯はクラウドファンディングの後の一般販売の記事で書いています)
出口まで含めて、新規事業の計画を作ります
「作った事業が最終的にいくらになるのか」を含めて検討したい、という段階のご相談を歓迎しています。自社でも輸入総代理事業を運営し事業売却を経験したSOLXIAが、御社のリソースに合わせた進め方をご提案します。
無料相談してみる買い手はどんな人たちなのか?
意外に思われることが多いのですが、買い手は法人だけではありません。個人事業主や1人法人の方も普通に手を挙げます。1,000万円前後がボリュームゾーンで、このレンジなら個人の買い手も十分に動きます。
面白いのは、買い手のなかに「立ち上げは苦手だが、伸ばすのは得意」という層が一定数いることです。ゼロから1を作るより、すでに回っている事業を買って1から10にするほうが自分の得意分野だ、という考え方です。実際、僕が売却した事業と、その後に売却された別の事業を、同じ方が買われたケースもありました。
売却先の探し方は、M&Aの仲介会社に依頼する方法もありますが、この規模ならネット上の事業売買プラットフォームに掲載するのが一般的です。掲載して、条件が合う相手から連絡が来る形になります。先ほどのLiberte様のケースは、掲載から1週間ほどで決まりました。
引き継ぎで、どこまで拘束されるのか?
事業を売ると、そのあと長く縛られるのではないか。ここもよく聞かれます。
結論から言うと、この規模のEC事業では引き継ぎ期間は1ヶ月から3ヶ月程度が多く、長期の拘束はほとんどありません。1ヶ月で十分というケースもあります。
理由は、事業の属人性が低いからです。引き継ぐ内容は、受注が入ってからの処理の流れ、海外メーカーとのやり取りの仕方、ECの管理画面の操作といったところで、経営者の人脈や勘に依存する部分が多くありません。立ち上がりのサポートに近い期間だと考えてください。
外注先を使っている場合も、そのまま引き継げます。ランディングページを作っている制作先や、広告運用を任せている運用者は、譲渡先にセットで紹介する形が多いです。買い手からすれば、すでに回っているチームごと手に入るので、むしろ歓迎されます。
なぜ輸入総代理で作った事業は売りやすいのか?
同じEC事業でも、売りやすいものと売りにくいものがあります。輸入総代理で作った事業が売りやすいのは、買い手から見て評価しやすい材料が揃っているからです。
- 独占販売権がある。日本でその商品を扱えるのが自社だけという状態を、そのまま引き継げます。買った翌日に競合が現れる心配がありません
- 顧客リストとSNSが残っている。自社ECで売っていれば、誰が買ったかというデータが手元にあります
- 在庫リスクが小さい。最初から大量の在庫を積まない進め方をしていれば、買い手が引き取る在庫の負担も軽くなります
- 属人性が低い。前の章のとおり、引き継ぎが軽く済みます
逆に、価格競争のなかで薄利を積み上げているだけの事業は、買い手から見ると「自分が買っても同じことを続けられるのか」が判断しにくくなります。参入障壁の有無が、そのまま売却時の評価に出ます。
売却を前提にすると、日々の運営はどう変わるか?
ここが一番お伝えしたいところです。出口を置いておくと、運営の中身が変わります。
具体的には、記録の残し方です。その事業単体の売上と経費が切り分けられているか。広告費に対してどれだけ売れているかが月ごとに追えるか。顧客リストが何件あるか。この3つを最初から整理しておくと、売ろうと決めたときに買い手へ見せる資料がほぼそのまま作れます。
そしてこれは、売らない場合にも効きます。数字が整理されている事業は、単純に経営判断がしやすい。どの商品に広告を寄せるか、どのブランドを伸ばすかという判断が、勘ではなく数字でできるようになります。
実際のところ、最初は「売るつもりです」と言っていた経営者ほど、利益が安定してくると手放さなくなります。売却は義務ではありません。いつでも売れる状態にしておくことと、実際に売ることは別です。選択肢として持っておく、という意味で出口を設計しておくことをおすすめします。
よくある質問
EC事業の売却額はどう計算されますか?
月間平均営業利益の約24ヶ月分が一つの目安です。そこに運営歴の長さ、SNSのフォロワー数、LINEリストの規模といった要素で上乗せを交渉します。ただし案件ごとに幅があり、買い手の事情でも動くため、あくまで交渉の出発点として考えてください。
運営期間が短くても売れますか?
売れます。当社の支援先には、EC運営6ヶ月の時点で売却が成立した例があります。ただし運営歴が長いほうが数字の信頼性は高く見られるため、価格では強気に出やすくなります。早く現金化したいのか、価格を取りにいくのかで判断が変わります。
売却したあと、どれくらい拘束されますか?
この規模のEC事業では、引き継ぎ期間は1ヶ月から3ヶ月程度が多く、長期の拘束は基本的にありません。受注から発送までの流れやメーカーとのやり取りを伝える、立ち上がりのサポートに近い内容です。
売却を前提にすると、事業のやり方は変わりますか?
日々の運営そのものは変わりませんが、記録の残し方が変わります。売上と経費の切り分け、広告の費用対効果、顧客リストの規模といった数字を最初から整理しておくと、買い手に見せる資料がそのまま作れます。結果として、売らずに持ち続ける判断をするときにも役立ちます。
まとめ:出口があると、新規事業の判断が変わる
この記事の要点です。
- 売却額の出発点は、月間平均営業利益の約24ヶ月分。案件ごとに幅があり、交渉で動く
- 営業利益は事業単体で計算する。1人運営なら自分の役員報酬を含めないことが多いが、専任の社員がいるなら人件費は入れる
- 上乗せの材料は、運営歴・SNSフォロワー・LINEリスト・独占販売契約の残り期間。どれも直前には作れない
- 運営6ヶ月でも買い手はつく。早く決めたいなら価格を落とす判断も成立する
- 買い手は法人だけでなく個人事業主や1人法人も多い。1,000万円前後がボリュームゾーン
- 引き継ぎは1ヶ月から3ヶ月程度。外注先ごと譲渡でき、長期の拘束は基本的にない
- 出口を置くと記録の残し方が変わる。数字が整理されている事業は、売らない場合も判断がしやすい
新規事業を検討するとき、多くの会社は「いくら儲かるか」から入ります。そこに「最終的にいくらで手放せるか」という視点が加わると、判断の基準が変わります。撤退が損失ではなく回収になるからです。ここまで含めて計算できるのが、独占販売権を持つ事業の強みだと考えています。
新規事業の入口から出口まで、数字で組み立てます
SOLXIAは自社でも海外メーカー8社と独占販売契約を結び、事業の立ち上げから売却までを実際に経験しています。御社のリソースと投資枠を伺ったうえで、現実的な計画を無料でご提案します。
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